今までのアトピー性皮膚炎の薬剤

従来のアトピー性皮膚炎は、ステロイドや保湿外用、抗アレルギー内服が主体でした。中等症以上の方はナローバンドUVBなどの光線治療やシクロスポリンなどの免疫抑制剤内服を行っておりました。しかし、以下のような問題もありました。

  • ステロイド外用:非常に有用だが、顔面に長期使用をすると皮膚が薄くなったり毛細血管が拡張する場合がある。
    ※しかし、現在も重要な薬剤であるのは間違いありません。
  • 抗アレルギー剤内服:そこまで大きな効果は期待できない。
  • 光線療法:薬剤を使用したくない方、妊娠中の方、中等症以上の方には向いているが、通院が週1~2回必要。
  • 免疫抑制剤:効果は大きいが、腎機能異常や免疫が抑えられることによる感染症などの可能性がある。

中等症以上の方には、最近、非常に効果のある新しい薬剤が次々と登場してきました!以下に紹介します。

新しいアトピー性皮膚炎の薬剤(注射)

中等症以上の方に使用できる生物学的製剤という抗体を利用した治療薬です。2023年5月時点ではデュピクセント、ミチーガの2種類が保険適応です。今後、アドトラーザという薬剤も処方可能になる予定です。
特にデュピクセントは効果が高く、使いやすいです。何十年も全身が真っ赤で皮膚がうろこ状に分厚くなっていた患者様が、みるみるツルツル肌になっていくのを目の当たりにすると、毎回、お勧めしてよかったなあと思います。また、患者さまも「こんなに良い状態になったのは初めてだ」とぼそっとつぶやかれていたのが印象的です。リンヴォックなどのJAK阻害薬内服に比べて、免疫抑制などの副作用が少ない、レントゲンが不要など、メリットが大きいです。

デュピクセント(デュピルマブ)(15歳以上)

※今後生後6か月以上の小児にも適応になる予定で、ますます重症アトピー性皮膚炎の治療が進みます。
※結節性痒疹にもデュピクセントが保険適応になりました。
<どんな薬?>
デュピクセントは 「IL-4」と「IL-13」という物質(サイトカイン)の働きを直接抑えます(※)。これによりアトピー性皮膚炎の皮膚の内部に起きている炎症反応を抑えることによって、かゆみや皮膚症状を大きく改善します。
※Th2細胞が産生する「IL-4」と「IL-13」の結合する受容体の「IL-4受容体α(IL-4Rα)」を特異的に阻害する完全ヒト化モノクローナル抗体薬。

<効果>
初回注射して2週目にはざらざらしていた肌がつるつるになっていたりすることもしばしばあり、非常に大きな効果が期待できます。もちろん全ての方に十分な効果があるわけではありませんが、ステロイド外用中心で症状の思わしくない方は一考の価値があります。しかし、顔の改善傾向が弱い印象です。ここがデュピクセントの弱みで、こちらを改善するには、外用剤の十分な併用や、リンヴォックなどの内服剤(リンヴォックは倍量が必要なこともあり)への変更をする必要があります。

<副作用>
時に不思議と目が赤くなる(結膜炎)ことがあります。他には単純ヘルペスなどの感染症、頭痛、好酸球上昇などがありえます。ただ大きな副作用は少なく非常に使いやすい薬剤です。

<投与法>
当院にて注射可能です。初回は2本(600㎎)、それ以降は2週間に1回ずつ1本(300㎎)注射を行います。継続して投与を続ける場合は、注射剤を処方して「ご自宅で注射」を行っていただきます。自宅で注射と聞くと不安に思う方もいらっしゃると思いますが、とても簡単です。医院でしっかりご指導しますね。特に予約は必要ありませんが、火曜終日と金曜午前は注射を行っておりませんのでご注意ください。

<投与間隔>
2週に1回が推奨です。薬剤の費用が高いので4週に1回にせざるを得ない場合もありますが、抗デュピルマブ抗体※の出現の可能性が若干アップする可能性があり、現時点では2週に1回を守った方が無難と言えます。※効果が減弱する中和抗体とは異なります。

<薬剤の費用>
3割負担で、初回35,265円、2回目以降1回分17,633円
※診察料などは別です。
※自宅で注射をする方法に切り替えると高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。
例 年収が370万~770万の世帯の場合 1回分17,633円→約13,500円。直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より1回分が7400円程度になります。 医療費について詳しくは、デュピクセントのメーカーHPで薬剤費の説明があります。「YES」をクリックしてください。
https://www.support-allergy.com/payment/

ミチーガ(ネモリズマブ)(13歳以上)

<どんな薬?>
ミチーガはアトピー性皮膚炎のかゆみを誘発するIL-31(サイトカイン)の働きを抑えます(※)。発疹はそこまでひどくないが、かゆみが強い方に向いています。かゆみをよくする効果は高く、素早く効果が出ると言われています。※IL-31が結合するIL-31RAに対するモノクローナル抗体薬。

<効果>
かゆみを素早く抑えるのがメインです。注射した翌日からかゆみが減る患者様もいらっしゃいます。

<副作用>
アトピー性皮膚炎の症状が一時的に悪化する場合があります。他にはヘルペスなどの皮膚感染症、上気道炎など。時に重篤な感染症もあり得ます。

<投与法>
注射は月に1回、クリニックで行います。特に予約は必要ありませんが、火曜終日と金曜午前は注射を行っておりませんのでご注意ください。

<薬剤の費用>
3割負担で1回分35,154円。※診察料などは別です。

アドトラーザ(トラロキヌマブ)(15歳以上)

※2023年5月7日時点では発売されていません。

<どんな薬?>
IL-13を選択的に阻害する生物学的製剤です(※)。
※2型サイトカインであるIL-13と結合し、IL-13とIL-13受容体のα1及びα2サブユニットとの相互作用を阻害します。

<効果>
大きな効果が期待できそうです。

<副作用>
上気道感染、結膜炎など。大きな副作用は少なそうです。

<投与法>
クリニックにて初回は4本(600㎎)、その後は2週ごとに2本(300mg)ずつ注射をします。

<薬剤の費用>
3割負担で初回52,731円、2回目以降1回分35,154円。
※診察料などは別です。

新しいアトピー性皮膚炎の薬剤(内服)

リンヴォックなどJAK阻害剤という薬剤が最近使用できるようになりました。非常に大きな効果が、早期から期待できます。2023年5月時点ではリンヴォック、サイバインコ、オルミエントの3種類が保険適応です。投与量によってはデュピクセントなどの生物学的製剤より大きな効果が期待できる反面、薬剤費が高額なこと、デュピクセントなどの生物学的製剤に比較して免疫抑制や血球減少などの副作用のリスクが高く、定期的なレントゲンや採血などの検査が必要なことなどの問題点があります。

リンヴォック錠(ウパダシチニブ水和物)(12歳から)

<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。特にJAK1を選択的に阻害します。

<効果>
中等症~重症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期に大きな効果が期待できます。特に30mgの内服では非常に切れ味が良い印象です。

<副作用>
上気道感染、結核、帯状疱疹、単純ヘルペスなどの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少、高脂血症、肝機能障害など。

<投与法>
投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。投与量は1日15㎎または30㎎です。30㎎は15歳以上で内服可。

<薬剤の費用>
3割負担で1か月(28日) 42,760円(1日15㎎)、1か月(28日)61,740円(1日30㎎)
※診察料などは別です。
※高額療養費制度を利用すれば安くなる可能性があります。
例)年収が370万~770万の場合 1か月42,760円または61,740円→1か月あたり約28,000円。詳しくはリンヴォックのメーカーのHPで費用の説明がありますので参照ください。

「患者様・ご家族の方」「はい」をクリックしてください。
https://rinvoq.jp/ad/whats_rinvoq/cost.html

サイバインコ錠(アブロシチニブ)(12歳以上)

<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。特にJAK1を選択的に阻害します。

<効果>
中等症~重症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期から大きな効果が期待できます。

<副作用>
上気道感染、単純ヘルペス、帯状疱疹などの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少など。

<投与法>
投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。1日100㎎または200㎎内服。12歳以上でも200㎎内服可。腎機能が悪い方は投与量の調整が必要です。

<薬剤の費用>
3割負担で1か月(28日)42,370円(100㎎)、63,555円(28日)(200㎎)
※診察料などは別です。
※高額療養費制度を利用すれば安くなる可能性があります。

オルミエント錠(バリシチニブ)

<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。※JAK1およびJAK2活性を阻害し、STATのリン酸化および活性化を抑制することでシグナル伝達を阻害します。

<効果>
中等症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期からかなりの効果が期待できます。

<副作用>
上気道感染、単純ヘルペス、帯状疱疹などの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少、肝機能異常、高脂血症など。

<投与法>
投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。1日4㎎または2㎎内服。腎機能が悪い方は投与量の調整が必要です。

<薬剤の費用>
3割負担で1か月(28日)44,309円(4㎎)、22,730円(28日)(2㎎)
※診察料などは別です。
※高額療養費制度を利用すれば安くなる可能性があります。