今までのアトピー性皮膚炎の薬剤
従来のアトピー性皮膚炎は、ステロイドや保湿外用、抗アレルギー内服が主体でした。中等症以上の方はナローバンドUVBなどの光線治療やシクロスポリンなどの免疫抑制剤内服を行っておりました。しかし、以下のような問題もありました。
ステロイド外用 | 非常に有用だが、顔面に長期使用をすると皮膚が薄くなったり毛細血管が拡張する場合がある ※しかし、現在も重要な薬剤るのは間違いありません。 |
抗アレルギー剤内服 | そこまで大きな効果は期待できない。 |
光線療法 | 薬剤を使用したくない方、妊娠中の方、中等症以上の方には向いているが、通院が週1~2回必要 |
免疫抑制剤 | 効果は大きいが、腎機能異常や免疫が抑えられることによる感染症などの可能性がある。 |
この数年で、極めて効果の高い生物学的製剤(注射)やJAK阻害薬(内服)の登場により特に重症のアトピー性皮膚炎に対する治療法は劇的に変わりました。今までいくら塗り薬をぬっても、そしてスキンケアを頑張ってもよくならない重症のアトピー性皮膚炎の方でも、あっという間にという言葉を言いたくなるほどスピーディーに良くなってしまう方が次々にみられるようになりました。
当院では、従来のステロイド外用、抗アレルギー剤内服、保湿、スキンケアの4本柱をベースとして、どうしてもよくならない重症のアトピー性皮膚炎の患者様に、新しい薬剤を提案し、大きな効果を上げています。

注射剤(生物学的製剤)
新しい注射剤の特徴
中等症以上の方に使用できる生物学的製剤という抗体を利用した治療薬です。極めて大きな効果があるにも関わらず、重篤な副作用がこれといって見当たらず、重症アトピー性皮膚炎の福音ともいえる薬剤です。何十年も全身が真っ赤で皮膚がうろこ状に分厚くなっていた患者様が、みるみるツルツル肌になっていくのを目の当たりにすると、毎回、お勧めしてよかったなあと思います。また、患者さまも「こんなに良い状態になったのは初めてだ」とぼそっとつぶやかれていたのが印象的です。定期的な注射が必要なのは難点ですが、リンヴォックなどのJAK阻害薬内服に比べて、免疫抑制などの副作用が少ないと思われ、またレントゲン検査が不要など、メリットが大きいです。

デュピクセント(デュピルマブ)(生後6か月以上)
<どんな薬?>
極めて大きな効果がある注射剤です。国内で処方可能になって7年以上経過しており(2025年現在)、アトピー性皮膚炎における生物学的製剤の先駆けともいえる薬剤です。
※デュピクセントは 「IL-4」と「IL-13」という物質(サイトカイン)の働きを直接抑えます。これによりアトピー性皮膚炎の皮膚の内部に起きている炎症反応を抑えることによって、かゆみや皮膚症状を大きく改善します。より詳しくは、Th2細胞が産生する「IL-4」と「IL-13」の結合する受容体の「IL-4受容体α(IL-4Rα)」を特異的に阻害する完全ヒト化モノクローナル抗体薬です。
<効果>
初回注射して2週目には、早くも分厚くざらざらしていた肌がつるつるになっていたりすることもしばしばあり、非常に大きな効果が期待できます。もちろん全ての方に十分な効果があるわけではありませんが、ステロイド外用中心で症状の思わしくない患者様には一考の価値があります。しかし、顔の改善傾向が弱い印象です。ここがデュピクセントの弱みです。
<副作用>
時に不思議と目が赤くなる(結膜炎)ことがあります。他には単純ヘルペスなどの感染症、頭痛、好酸球上昇などがありえます。ただ大きな副作用は少なく非常に使いやすい薬剤です。
<投与法>
当院にて注射可能ですし、希望の方は自宅で注射することもできます。自宅で注射すると高額療養費制度を利用して自己負担分の費用を抑えることができ、多くの方が自宅で注射を行っております。最初は2本(600㎎)接種して、2週ごとに1本(300㎎)を定期的に接種していきます。自宅で注射と聞くと不安に思う方もいらっしゃると思いますが、とても簡単です。医院でしっかりご指導しますね。特に予約は必要ありませんが、火曜終日は注射を行っておりませんのでご注意ください。
<結節性痒疹への投与>
15歳以上の方では結節性痒疹にもデュピクセントは注射できます。初回600㎎、以降は2週ごとに300㎎の注射をします。
<薬剤の費用>
3割負担で、初回(600㎎)32,195円、2回目以降1回分 (300㎎)16,098円。つまり初月が48,293円、翌月以降が毎月32,196円となります。
※診察料などは別です。
※自宅で注射をする方法に切り替えると高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。
(例) 年収が370万~770万の世帯の場合 月平均32,195円→26,700円。直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より月平均14,800円になります。 医療費について詳しくは、デュピクセントのメーカーHPで薬剤費の説明があります。
詳細はこちらをクリックしてください。

ミチーガ(ネモリズマブ)(6歳以上)
<どんな薬?>
ミチーガはアトピー性皮膚炎のかゆみに対して非常に大きな効果が期待できます。発疹はそこまでひどくないが、かゆみが強い方に向いています。
※かゆみを誘発するIL-31(サイトカイン)の働きを抑えます。詳しくは、IL-31が結合するIL-31RAに対するモノクローナル抗体薬です。
<効果>
かゆみを素早く非常に強力に抑えるのが特徴です。注射した翌日からかゆみが減る患者様もいらっしゃいます。
<副作用>
アトピー性皮膚炎の症状が一時的に悪化する場合があります。他にはヘルペスなどの皮膚感染症、上気道炎など。時に重篤な感染症もあり得ます。
<投与法>
注射は月に1回60㎎接種します。注射はクリニックで行います。特に予約は必要ありませんが、火曜終日は注射を行っておりませんのでご注意ください。
<結節性痒疹への投与>
ミチーガは13歳以上の患者様の結節性痒疹にも使用ができます。初回60mg、以降は30㎎を4週ごとに接種します。
<薬剤の費用>
3割負担で1回(60㎎)34,928円。※診察料などは別です。

アドトラーザ(トラロキヌマブ)(15歳以上)
<どんな薬?>
アドトラーザは、アトピー性皮膚炎に関与するIL-13というサイトカインの働きを抑えるお薬です。IL-13は炎症やバリア機能の低下に関係しており、それをブロックすることで湿疹やかゆみを改善します。デュピクセントと似た仕組みの薬ですが、IL-13に特化しているのが特徴です。
<効果>
アトピー性皮膚炎の発疹やかゆみの非常に大きな改善が期待できます。ステロイド外用薬や保湿剤を併用しながら、皮膚の状態を整えていきます。
<副作用>
結膜炎や注射部位の反応、ヘルペスなどの皮膚感染症、上気道炎などが報告されています。まれに重い感染症が起きることがありますので、症状が気になる際はご相談ください。
<投与法>
2週に1回、クリニックで注射します。安定してくると、ご自身で注射する在宅注射に切り替えることも可能です。初回投与:600mg。継続投与:300mgを2週間ごと。
<薬剤の費用>
3割負担で、初回(600㎎)25,115円、2回目以降1回(300㎎)12,558円。つまり、初月が37,673円、翌月以降が毎月25,116円の自己負担となります。
イブグリース(レブリキズマブ)(12歳以上)
<どんな薬?>
イブグリースもIL-13という炎症物質の働きを抑えるお薬です。アドトラーザと同じくIL-13に特化した抗体薬ですが、投与間隔を2~4週で柔軟に調整できるのが特徴です。
<効果>
アトピー性皮膚炎の赤みやかゆみの改善に極めて大きな効果があります。デュピクセントで十分な効果が出なかったり、副作用が気になった場合に、イブグリースに変更することもあります。
<副作用>
注射部位の赤みや痛み、頭痛、上気道炎などが報告されています。まれに重い感染症やアレルギー反応が出ることもあります。
<投与法>
12歳以上かつ体重40kg以上の方が対象。最初の1か月は2週ごとに2回、その後は2~4週ごとの注射になります。症状に応じて医師が間隔を調整します。注射はクリニックで行います。初回及び2週後に1回500mg。4週以降は1回250mgを2週間隔で注射。状態に応じて、4週以降なら1回250mgを4週間隔でもよい。
<薬剤の費用>
3割負担で、初回と2回目(500㎎)がそれぞれ30,469円、3回目以降が1回(250㎎)15,235円。つまり初月は60,938円、翌月以降は毎月15,235~30,470円。
※自宅で注射をする方法に切り替えると高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。
例 月2回投与、年収が370万~770万の世帯の場合 月平均30,470円→26,700円、直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より月平均14,800円になります。 医療費について詳しくは、イブグリースのメーカーHPで薬剤費の説明があります。
詳しくはこちらをクリックしてください。
内服(JAK阻害薬)
<新しい内服剤の特徴>
JAK阻害剤という内服薬です。内服であるにも関わらず非常に大きな効果が期待できます。2025年5月時点ではリンヴォック、サイバインコ、オルミエントの3種類が保険適応です。種類や投与量によってはデュピクセントなどの生物学的製剤より大きな効果が期待できますが、定期的なレントゲンや採血などの検査が必要なことなどの問題点があります。

リンヴォック錠(ウパダシチニブ水和物)(12歳から)
<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。特にJAK1を選択的に阻害します。
<効果>
中等症~重症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期に大きな効果が期待できます。特に30mgの内服では非常に切れ味が良い印象です。
<副作用>
上気道感染、結核、帯状疱疹、単純ヘルペスなどの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少、高脂血症、肝機能障害など。
<投与法>
12歳以上かつ体重30kg以上の小児に使用できます。投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。
15mgを1日1回内服します。状態に応じて30mgを1日1回内服することができます。
※レントゲンと採血は、投与前、投与1か月後、3か月後、6か月後。以降は6か月に1回。
<薬剤費>
3割負担の場合 リンヴォック錠毎日15㎎内服の場合は毎月36,370円、毎日30㎎内服の場合は毎月55,690円。
※3か月処方などで、高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。なお、投与開始初期は副作用チェックを1~3か月ごとに行うため、3か月分の長期処方はできない場合があります。
(例) 年収が370万~770万の世帯の場合 月平均36,370~55,690円→26,700円、直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より月平均14,800円になります。 医療費について詳しくは、リンヴォックのメーカーHPで薬剤費の説明があります。
詳しくはこちらをクリックしてください。
サイバインコ錠(アブロシチニブ)(12歳以上)
<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。特にJAK1を選択的に阻害します。
<効果>
中等症~重症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期から大きな効果が期待できます。
<副作用>
上気道感染、単純ヘルペス、帯状疱疹などの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少など。
<投与法>
投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。
12歳以上の小児には、100mgを1日1回内服。状態に応じて200mgを1日1回内服することができる。
※レントゲンと採血は、投与前、投与1か月後、3か月後、6か月後。以降は6か月に1回。
<薬剤費>
3割負担の場合 100㎎内服の場合は毎月36,014円、200㎎内服の場合は毎月54,022円。
※3か月処方などで、高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。なお、投与開始初期は副作用チェックを1~3か月ごとに行うため、3か月分の長期処方はできない場合があります。 (例) 年収が370万~770万の世帯の場合 月平均36,014~54,022円→26,700円、直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より月平均14,800円になります。
オルミエント錠(バリシチニブ)(2歳以上)
<どんな薬?>
JAK阻害薬という種類の内服です。※JAK1およびJAK2活性を阻害し、STATのリン酸化および活性化を抑制することでシグナル伝達を阻害します。
<効果>
中等症のアトピー性皮膚炎の方に使われ、早期からかなりの効果が期待できます。
<副作用>
上気道感染、単純ヘルペス、帯状疱疹などの感染症。ニキビ、胃腸障害、頭痛、血球減少、肝機能異常、高脂血症など。
<投与法>
2歳以上の方が内服できます。投与前に採血と胸部レントゲンを撮影します。問題なければ、内服を開始しますが、安全に使用するため定期的に採血と胸部レントゲンを行う必要があります。
30kg以上 | 4mg1日1回 状態に応じて2mgに減量 |
30kg未満 | 2mg1日1回 状態に応じて1mgに減量 |
※レントゲンと採血は、投与前、投与1か月後、3か月後、6か月後。以降は6か月に1回。
<薬剤の費用>
3割負担の場合 オルミエント錠毎日4㎎内服の場合は毎月40,488円、毎日2㎎内服の場合は毎月20,769円。
※3か月処方などで、高額療養費制度を利用して薬剤費を少なくすることが可能な場合があります。なお、投与開始初期は副作用チェックを1~3か月ごとに行うため、3か月分の長期処方はできない場合があります。 例 年収が370万~770万の世帯の場合 月平均20,769~40,488円→26,700円、直近12ヵ月以内に3回以上高額療養費制度の適用を受けた場合(多数回該当)、4回目以降の月の自己負担の上限額がさらに引き下げられます。上記の例だと早ければ、10ヶ月目より月平均14,800円になります。
終わりに
アトピー性皮膚炎の治療は年々変化しています。特に重症のアトピー性皮膚炎の治療に対してはこの数年で格段の進歩がみられました。今後も新しい薬剤の開発が期待されます。当院では、ステロイド内服、抗アレルギー薬内服、保湿、スキンケアという基本をスタンダードにして、必要に応じて患者様の状態に沿った最も適した新しい治療を提案してゆきます。