アトピー性皮膚炎のお子様がみえるご両親にまずお話ししたいこと。
アトピー性皮膚炎と皮膚科で診断されたり、また、ご自分のお子様がアトピーではないか?と悩んでいるご両親は多いと思います。大変ご心配だとは思いますが、小児期、特に乳幼児期の適切な治療により、将来、アトピー性皮膚炎でお子様がつらい思いをしないようにすることは十分可能だと思います。そもそも典型的には小学校の間に良くなる病気ですので、いかにそれ以上にアトピーを長引かせないようにするかも治療の目標になります。
アトピー性皮膚炎の治療について、当院が心がけていることは5つ。
1、 お子様のつらい症状をなるべく早く、かつ、十分に取り去るようにする。
2、 治療やスキンケアは、その方の肌の状態や生活環境、治療に対するこだわりなどを、お一人ずつ考慮して行う。
3、 重症のアトピーはもちろん、喘息、花粉症、食物アレルギーなど他のアレルギー病にならないことを目的とした治療を行う。
4、コレクチム軟膏などステロイド以外の外用剤も積極的に活用する。
5、小児でも負担の少ないアレルギー検査を積極的に行って悪化要因を追求する。
このうち、特に知っていただきたいのは3の「重症のアトピーや他のアレルギー病にならないようにする」ことです。
乳幼児の肌が赤くかゆいアトピー性皮膚炎はもとより、乾燥肌も、他のアレルギー病の誘因になるということをご存知でしたか?
いろんな研究や調査により、乳幼児期の適切なスキンケアや十分なアトピー性皮膚炎のコントロールをすることで、他のアレルギー病に移行してゆくのを防げる可能性があることがわかってきています。アトピー性皮膚炎を十分にコントロールすれば、喘息や食物アレルギーなどを防げる可能性があるのです。
それゆえ、ご両親には、「乳幼児期の皮膚科専門治療の重大性」をぜひご理解いただきたいと切に切に願っております。
どんな病気?
小児アトピー性皮膚炎の特徴は、乳児の頃に発生はしますが10歳までに良くなるお子さんが多いという点です。
まず、小児アトピー性皮膚炎は治らないものというように思わないでいただきたいと思います。
小児アトピー性皮膚炎は生後2~3か月ごろに顔からから始まり、徐々に肘・膝の内側、体などに治りにくいかゆい湿疹ができて、慢性に続きます。全身の皮膚が乾燥する傾向があります。アトピー素因のある人は、アトピー性皮膚炎になりやすい体質といわれています。
アトピー素因とは以下の2つを意味します。
1. (本人や)家族が気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎になったことがある。
2. ほこり・ダニ・食物などに対するアレルギー抗体(IgE抗体)を作りやすい体質を持っている。
原因は、完全には解明されておりませんがアレルギーだけで起こっているわけではありません。遺伝的な体質と環境の2つが原因といわれています。
この遺伝的な体質と環境の影響が複雑に関係して、アトピー性皮膚炎の症状が出るといわれています。ひとつの要素だけで症状が出ているとは限りません。例えば食事制限などひとつの要素に対してだけ治療をしても、必ずしもアトピー性皮膚炎がよくならないのはこういう理由からなのです。
食物アレルギーについて
母乳100%の乳児でもお母さんが食べたものが母乳の中に混入し、お子さんが離乳前に食物アレルギーになっている場合があります。乳児の食物アレルギーのヒントは採血で調べることができます。
離乳期、特にタンパク類(卵、小麦、牛乳、大豆など)を食べる時期になると食物アレルギーが気になることがあります。皮膚の食物アレルギーは2種類あります。
1. 食べたらすぐ顔や全身が真っ赤になる場合: これは採血の結果や実際食べたものを考慮して原因となりそうな食物があれば、それをしばらく除去すると発疹が出なくなる事があります。
2. 毎日食べているうちに全身の湿疹がゆっくり悪化してきた場合: 原則は外用治療で様子を見て食物制限は行わないことが多いですが、外用治療に反応が悪い場合は、採血で原因のヒントを調べたりして、試験的に食物制限を行ったりすることもあります。
大事なのは小学生になるころには多くの食物アレルギーは自然治癒(緩解)していることが多いので、食物アレルギーに対して過敏にならず、必ず医師と相談してから食物アレルギーの検査や食物制限を考えましょう。
※小児のアレルギー検査は、当院では指先で行う注射器を使わない41項目検査のできる検査方法も可能です。後述しますので参照ください。
皮膚の乾燥について
小児の皮膚の特徴は、皮膚が薄く乾燥しやすいところにあります。
皮膚のみずみずしさは、皮脂、天然保湿因子、角質細胞間脂質という3つの物質によって保たれています。アトピー性皮膚炎ではこれらの物質が減ってしまうことにより皮膚が乾燥し、これによりアトピー性皮膚炎が悪化するといわれています。この乾燥は、適切なスキンケアと保湿剤の外用である程度よい状態に保つことが可能です。
診断
以上の症状を参考にしてアトピー性皮膚炎と診断します。
血液1滴で行うアレルギー検査について
当院では「通常の腕から行う採血」と「指先から血液1滴を採取して行う方法」の2種類の小児アレルギー検査を行っております。双方とも健康保険適応です。0歳児から検査が可能です。採血が難しい小学生以下のお子様は、指先から血液一滴を採取して41項目(卵、小麦、牛乳、大豆含む)の検査をおこなっております。このような方法で行うのでお子様に痛みや不安をなるべく感じさせないで検査が可能です。火曜以外は検査が可能ですが、午前や午後の受付時刻終了近くでは行うことができない場合がありますので、余裕をもってご来院していただき、また受付でアレルギー検査希望の旨をおっしゃっていただきたく存じます。
治療
現在お子様が苦しんでいる痒みなどの苦痛をコントロールし、健やかに成長していっていただくことが第1の目標になります。アトピー性皮膚炎があるから何かを制限しなければいけないのではなく、薬を使用しているけれど他のお子様と全く変わらない快適な生活を送っていただくようにお手伝いをさせていただきたいのです。(10才位になるまでに落ち着く事が多いです。)
外用薬
副腎皮質ホルモン外用薬
アトピー性皮膚炎では一般的に副腎皮質ホルモンの塗り薬を使用します。副腎皮質ホルモン外用薬は、年齢、部位、皮膚の状態、患者さまのライフスタイルなどによって使い分けが必要な薬物です。よく「副腎皮質ホルモンはよくないのでは?」とのご質問を外来でいただきますが、熟練した皮膚科医師の元で治療を受けていただければ安全で効果的な治療が可能になると思います。外来では希望の方には副腎皮質ホルモンについての資料をお渡しして説明をさせていただいております。
ステロイド以外の外用剤
以前は効果がある程度以上ある外用剤はステロイド中心でした。しかし、プロトピック軟膏を皮切りに、現在はコレクチム軟膏やモイゼルト軟膏といった一定以上の効果のある非ステロイド外用薬を使用することができるようになりました。またこれらの薬剤は、成人はもちろん、小児(コレクチムは6カ月以上)も使用できます。
→詳しくはこちらをクリックしてください。
プロトピック軟膏(タクロリムス)(2歳以上)
免疫を抑える外用剤です。刺激感があるのが欠点ですが、次第に慣れることが多いです。軟膏の塗り方を調整してうまく刺激を回避しつつ慣れてゆくのがコツです。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)(生後6カ月以上)
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬という種類の外用剤です。プロトピックと異なり、刺激感が少なくなっています。
モイゼルト軟膏(ジファミラスト)(2歳以上)
PDE4阻害剤という種類の外用剤です。コレクチムと同様に、プロトピックと異なり、刺激感が大幅に少なくなっています。
保湿剤
アトピー性皮膚炎の予防には保湿剤の外用が重要です。保湿剤(へパリン類似物質やワセリン系統)を毎日塗り続けることでアトピー性皮膚炎をある程度予防することが可能です。
内服薬
- 抗ヒスタミン剤
いわゆるかゆみ止めの飲み薬です。最近では眠気の少ない薬もでてきております。
日常生活の注意点
- 入浴の注意点
お風呂の温度はぬるめで。体を洗う時は低刺激の石けんを十分に泡立ててやさしく洗いましょう。 - 保湿剤外用
肌の乾燥はアトピー性皮膚炎を悪化させます。保湿剤を塗りましょう。 - 肌着の注意点
肌着はなるべく綿が多く入った柔らかいものを使用しましょう。 - 掃除
ダニやホコリはアトピー性皮膚炎の悪化因子です。掃除機がけをこまめに。 - 湿度
50~60%が理想です。これ以下だと皮膚が乾燥し、これ以上だとダニが繁殖しやすくなります。 - 爪を切る
引っ掻くとよけいにアトピー性皮膚炎が悪化します。 - ストレス
長くアトピー性皮膚炎の患者さまを診させていただいて実感するのは、ストレスというものがかなりアトピー性皮膚炎に影響を与えるということです。痒み自体がストレスになっていたり、母子関係が影響を与える場合があるといわれています。