ここまで本当によく頑張ってこられましたね

お子様がかゆみや湿疹に苦しむ姿を見るのは、どんなに心を痛めることでしょう。寝ている間もかきむしってしまう、学校でつらい思いをしている、薬を塗っても塗ってもきりがない、薬を塗るのすらお子様が嫌がってしまう……。重症のアトピー性皮膚炎は、子どもにとっても、そしてそばで支えるご家族にとっても、大きな試練です。まずは、日々お子様と向き合い続けているご自身を、どうかねぎらってあげてください。私たちは、そんなご家族の気持ちに寄り添いながら、一緒に治療の道を考えていきたいと願っています。

いつまでこんなことが続くのだろうか……

赤ちゃんの頃から湿疹が顔や頭に出て、それがだんだん手足や体に広がっていく。
薬を塗ればよくなるけれど、ちっとも完治しない。「保湿、保湿」と言われるけれど、毎日全身に朝晩保湿をするのは大変すぎる。小学生になっても湿疹はひどく、顔は真っ赤に、腕や足は掻きすぎて傷だらけ。ごわごわして、色素沈着も出てきてしまう。当院を受診されるお子様の中には、このように重症のアトピー性皮膚炎で悩んでいる方もいらっしゃいます。
「いつになったら治るのか」——本当にご心配なことと思います。確かにアトピー性皮膚炎は、赤ちゃんや子どもに多い病気で、外用治療でも大きな効果をあげることができます。そして、よほど重症でない限り、中学生、高校生、大人になるにつれて自然と改善していくケースも多いです。 しかし、それは“今すぐ”ではないかもしれません。

治療薬の進歩について

近年、アトピー性皮膚炎の治療薬は大きな進歩を遂げています。これまでの小児アトピー性皮膚炎の基本的な治療は、「ステロイド外用」「保湿」「抗アレルギー薬の内服」、そして「スキンケア」の4本柱でした。
現在もこの基本は変わっていません。しかし、重症の場合は、外用薬主体の治療では限界があることも事実です。ここ数年で、重症アトピー性皮膚炎の治療薬は劇的に進化しました。いくら外用やスキンケアをしても良くならなかった症状が、驚くほど速やかに回復するケースも多く、今後は重症アトピー性皮膚炎そのものが減っていくのではないかと感じるほどです。具体的には、「生物学的製剤による注射薬」や「JAK阻害薬内服薬」の登場があります。また、非ステロイド外用薬(モイゼルトやコレクチム軟膏など)の新登場により、顔や目まわりの治療がより安全で行いやすくなっています。当院では、これらの新しい薬剤を、従来の方法で改善が思わしくなかった重い小児アトピー性皮膚炎のお子様に適切に使用し、大きな効果を上げています。

重症アトピー性皮膚炎の主な特徴

皮膚の症状

全身の皮膚が赤くなり、ジュクジュク・カサカサ・ゴワゴワと硬くなり、掻くことで皮膚が割れたり出血したりすることもあります。バリア機能が低下し、刺激に非常に敏感な状態です。

強いかゆみ

  • 1日中我慢できないほどのかゆみ
  • 夜間の掻き壊しによる睡眠不足
  • 集中力の低下や情緒不安定

目のまわりの症状(眼科的合併症)

  • まぶたの腫れ(眼瞼炎)
  • 結膜炎・角膜炎
  • 放置すると視力への影響も

色素沈着

  • 掻く・炎症が長引くことで色素沈着が起こりやすくなります
  • 額・首・肘・膝裏などに目立ちやすい※ステロイドの副作用ではありません

アミロイド沈着

  • 慢性的な炎症により、茶色く硬いしこりが下腿などにできることがあります

感染症の合併

  • カポジ水痘様発疹症(単純ヘルペスウイルス)
  • とびひ(細菌感染)
  • 毛包炎(毛穴の感染)
  • 水いぼ

社会生活への影響

  • 学校での集中困難・欠席の増加
  • 体育・プール参加制限
  • 周囲の視線によるストレス
  • 友達との遊びや交友関係の制限

治療のご案内

外用療法(ぬり薬)

薬剤名特徴
ステロイド外用薬強い炎症を抑える古典的な基本治療薬(全年齢)
プロトピック小児用軟膏代表的な非ステロイド系の免疫抑制剤(2歳以上)
コレクチム軟膏JAK阻害外用薬・非ステロイド(6か月以上)
モイゼルト軟膏PDE4阻害外用薬・非ステロイド(3か月以上)
ブイタマークリーム最も新しい非ステロイド。1日1回の外用でOK(12歳以上)

 内服療法(飲み薬)

  • 抗アレルギー薬
    古典的なかゆみ止め。かゆみに対する基本的な内服薬です。
  • JAK阻害薬(中等症〜重症に対応)
    非常に大きな効果が見られる新しい薬剤です。

≪メリット≫

  • 内服で注射ではない
  • (生物学的製剤に比べて)結膜炎の副作用が少ない

≪デメリット≫

  • レントゲン(結核の早期発見)が定期的に必要
  • 採血の頻度が多い
  • 帯状疱疹など免疫抑制の副作用がありうる
商品名成分名開始年齢胸部
レント
ゲン
採血
リンヴォックウパダシチニブ12歳以上必要必要
サイバインコアブロシチニブ12歳以上必要必要
オルミエントバリシチニブ2歳以上必要必要

※レントゲン・採血はいずれも以下のタイミングで実施します:開始前・1か月後・3か月後・6か月後・以降は6か月ごと

生物学的製剤(注射薬)

非常に大きな効果が見られる新しい薬剤です。

≪メリット≫

  • (JAK内服に比べて)レントゲンが無い
  • 採血の頻度が少ない

≪デメリット≫

  • 顔の効果が弱い。
  • 結膜炎の副作用が時に見られる。
商品名成分名開始年齢投与間隔作用機序
デュピクセントデュピルマブ6か月以上2週または4週ごと※IL-4およびIL-13をブロック
痒疹も適応あり
アドトラーザトラロキヌマブ15歳以上2週ごとIL-13をブロック
イブグリースレブリキズマブ12歳以上初月は2週ごとを2回→以降2〜4週ごと
(調整可)
IL-13をブロック
ミチーガネモリズマブ6歳以上4週ごとIL-31の抑制。痒疹も効果。

※デュピクセントは体重・年齢により投与量や間隔が異なります

スキンケアと生活指導

保湿ケア

  • 入浴後5分以内の塗布が理想です
  • 主にヘパリン類似物質(ヒルドイド等)を使用
  • 朝・晩2回の保湿が炎症の再発予防に効果的
    ※ただし、体が大きくなってくると毎日全身保湿は負担が大きいため、無理せず「夜のみ」「悪化しやすい部位のみ」でも構いません

入浴・洗浄方法

  • 泡立てた低刺激性石けんを手でやさしく洗う
  • ジュクジュクしていても入浴で清潔を保ちましょう
  • お湯の温度は夏38度、冬39度。入浴時間は短めに

衣類・環境整備

  • 綿など肌ざわりのやさしい衣類
  • タグや縫い目の刺激を避ける
  • 掃除機は毎日、シーツは水洗い、エアコンのフィルター掃除は週1回
  • 空気清浄機の設置も有効

爪管理・掻き壊し対策

  • 爪は短く切る
  • 就寝時は綿手袋や包帯などで保護
  • 「掻かないで!」よりも、冷やす・塗る・共感することが大切です

心のケア・社会的支援

  • 外見や学校生活の制限による自己肯定感の低下に要注意です

最後に

アトピー性皮膚炎は「すぐに完治する病気」ではないかもしれません。
しかし、適切な治療と生活環境の調整によって、確実に症状の改善が期待できます。そして、生物学的製剤やJAK阻害薬などの新しい選択肢によって、これまで「何をしても良くならなかった症状」が劇的に改善することも多くあります。お子様のつらさ、ご家族のご苦労に、私たちはしっかり向き合いながら、お子様に最も適した治療を一緒に考えてまいります。

よくあるご質問(Q&A)

Q:生物学的製剤やJAK阻害薬を使わないと重症アトピーは良くなりませんか?

A. いいえ、そんなことはありません。通常の外用・内服・保湿・スキンケアだけでも症状の緩和は可能です。ただし、毎日の全身外用が負担だったり、努力しても改善が乏しい、夜中に掻いて眠れないなどの場合には、新しい薬剤の使用も検討できます。

Q. 生物学的製剤やJAK阻害薬は一度始めたらずっと続けなければなりませんか?

A. いいえ、その必要はありません。新しい薬剤で症状が非常によくなれば、数か月でいったん終了することもよくあります。

Q. これらを使えば、ぬり薬はいらなくなりますか?

A. ほとんど症状が消え、塗り薬や飲み薬が不要になる方もいらっしゃいます。
ただし、保湿は再発予防に不可欠ですし、関節・首・額など一部には症状が残ることもあります。完全に不要になるとは限りません。

Q. 生物学的製剤やJAK阻害薬は安全ですか?

A. 感染症(ヘルペス、ニキビなど)のリスクがありますが、安全性は治験で確認されています。ステロイドのように何十年も使用されてきた実績はないものの、現在まで大きな副作用が多発している報告はありません。定期的な通院・診察で安全に使用できるように注意を払っております。なお、代表的なデュピクセントは日本国内での発売からすでに7年が経過しています。

Q. 重症の小児アトピー性皮膚炎では、皮膚以外に注意すべき点は?

A. 精神的ケアがとても大切です。
見た目や生活制限からくるメンタル面のサポート、喘息・花粉症・食物アレルギーなど他のアレルギー疾患への対応も必要です。特に目の周りのかゆみが強い場合は、必ず眼科を定期受診してください(掻くことで眼の病気になることがあります)。