ステロイド外用
従来はステロイド外用がアトピー性皮膚炎の治療の主体でした。とても有効性が高い薬剤で、現在も小児アトピー性皮膚炎治療の中心となっています。また60年以上の使用実績もあり安全性や効能が十分わかっていますので、そういった意味でも使いやすい薬剤です。しかし、乳幼児の使用ではあまりみられませんが、顔面に長期間使用すると皮膚が薄くなる、赤くなる、血管が拡張するなど副作用がみられる場合もあります。また、多毛、毛包炎などがみられることもあります。ただ、ステロイド外用の使用を少なくしたり、中止すると回復することが多いです。もちろん、長期間使用しても副作用がほぼでない方もおおぜいいらっしゃいます。近年、プロトピック軟膏を皮切りに、ステロイドではなく、かつ、効果がある程度ある外用剤がいくつか登場しましたので、以下で説明いたします。なお、ステロイド外用が現在も最も重要で有益な薬剤であることは変わりません。
新しい小児アトピー性皮膚炎の薬剤(外用)
小児プロトピック軟膏(タクロリムス)(2歳以上)
<どんな薬?>
小児プロトピック軟膏はステロイドではない外用剤です。小児プロトピック軟膏は体の免疫反応が過剰になっている状態を正常にすることによって、ステロイド外用薬と同じように皮膚の炎症を抑える作用を持っています。小児プロトピック軟膏ではステロイドの副作用の多くが改善されていますが、ヒリヒリする刺激があるのと顔以外への効果がステロイドほど強くないという問題点もあります。分子量(薬剤の粒の大きさ)が822と大きいため、正常な皮膚にはほぼ吸収されませんので、病気の皮膚には吸収されて効果を発揮し、良くなってくると吸収されなくなるので「塗りすぎの心配の少ない、メリハリのある薬剤」と言えます。
<効果>
0.03%小児用(2歳~15歳)はステロイドのマイルド(メディアム)~ストロング程度の効果があります。前述のように分子量が大きいため、皮膚に吸収されにくく、顔や首のように薄い皮膚の場合は効果がかなり期待できますが、体幹・四肢・手足のように皮膚が分厚い部分は効果が劣ります。
<副作用>
ステロイドの長期使用に伴う副作用が大幅に軽減されています。例えば、皮膚が薄くなる、多毛になるという副作用はありません。しかし、外用時にヒリヒリした刺激感、ほてり、かゆみなどがしばしばみられます。皮膚炎が改善するに従い、このような刺激症状は軽くなってゆきます。刺激症状が強い場合の対応は
①ステロイド外用で炎症を抑えてから使用する
②保湿剤を外用してその上に重ねて外用する
③入浴後などの皮膚がほてっているときは外用しない
④冷やす
などの対応法があります。他にはにきびなどが時折みられます。なお、プロトピック軟膏外用にて、リンパ腫や皮膚がんが発生しやすくなることはないと考えられています。
<使用法>
小児プロトピック軟膏を1日2回、こすらないで優しくたっぷり患部に外用します(※)。0.03%(小児用)軟膏は2-15歳の小児に使用します。(参考)1日の外用量の上限
2-5歳(20kg未満)2 g
6-12歳(20-50kg)4 -8 g
13歳以上(50kg以上)10 g
※外用剤を塗る目安は、感覚的には「ティシュがくっつく、テカるくらい」です。より詳しく言いますと、人差し指の先端から第一関節まで出した量(1FTUと言い、約0.5g)にて、手のひら2枚分ぐらいの面積に塗ることができます。
<注意点>
・皮膚がジュクジュクしている部分、おできやにきび、皮膚以外の部分(口や鼻の中の粘膜)や外陰部には外用しません。
・塗った患部を長時間、日光にさらさないように注意してください。また、日焼けランプや紫外線ランプも使用を避けてください。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)(生後6か月以上)
<どんな薬?>
コレクチム軟膏は、小児アトピー性皮膚炎に効果のあるステロイドではない外用剤です。我が国で開発されたアトピー性皮膚炎に対する世界初の外用JAK阻害薬(※)です。ステロイド長期使用でみられる副作用が軽減されると予想され、また同じ非ステロイド外用であるプロトピック軟膏でみられた皮膚刺激感も大幅に軽減しており、非常に使いやすくなりました。今後の軽症~中等症のアトピー性皮膚炎の治療に大きな期待ができそうです。※ヤヌスキナーゼファミリー(JAK1,JAK2,JAK3及びTyk2)のキナーゼ活性をすべて阻害することによりアトピー性皮膚炎に関連する種々のサイトカインシグナル伝達を阻害します。免疫細胞及び炎症細胞の活性化を抑制して皮膚の炎症を抑制します。また,そう痒及び皮膚バリア機能関連分子の発現低下を抑制します。
<効果>
コレクチム軟膏0.5%がステロイドのメディアム~ストロングクラス、コレクチム軟膏0.25%がステロイドのミディアムクラスの印象です。
<副作用>
ニキビ、皮膚の刺激感など。コレクチム軟膏では、ステロイド長期使用でみられるいくつかの副作用は大幅に軽減されていると予想されます。また、従来から使用されている非ステロイド外用であるプロトピック軟膏でみられた皮膚刺激感が大幅に軽減されており、非常に使用がしやすくなりました。52週までの長期使用で安全性が確認されています。なお、2023年5月現在、販売されてから3年間ほど経過しております。
<使用法>
コレクチム軟膏を1日2回、こすらないで優しくたっぷり患部に外用します(※)。1日10gまで外用できます。6か月以上の小児は0.25%または0.5%を使用します。※外用剤を塗る目安は、感覚的には「ティシュがくっつく、テカるくらい」です。より詳しく言いますと、人差し指の先端から第一関節まで出した量(1FTUと言い、約0.5g)にて、手のひら2枚分ぐらいの面積に塗ることができます。
モイゼルト軟膏(ジファミラスト)(2歳以上)
<どんな薬?>
ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害の活性を阻害して炎症を抑える(※)ステロイドではない外用剤です。ステロイド長期使用でみられる副作用が軽減されると予想され、また同じ非ステロイド外用であるプロトピック軟膏でみられた皮膚刺激感も大幅に軽減しており、非常に使いやすくなりました。今後の軽症~中等症のアトピー性皮膚炎の治療に大きな期待ができそうです。(※)ジファミラストはホスホジエステラーゼ(PDE)4の活性を阻害します。PDE4は多くの免疫細胞に存在し、cAMPを特異的に分解する働きを持ちます。本作用機序に基づいて、炎症細胞の細胞内cAMP濃度を高め種々のサイトカイン及びケモカインの産生を制御することにより皮膚の炎症を抑制します。
<副作用>
色素沈着、毛包炎など。大きな副作用は少ないと思われます。
<使用法>
モイゼルト軟膏を1日2回、こすらないで優しくたっぷり患部に外用します(※)。2歳~14歳の小児のアトピー性皮膚炎の方は0.3%または1%、15歳以上の成人のアトピー性皮膚炎の方は1%の外用剤を適量使用します。
※外用剤を塗る目安は、感覚的には「ティシュがくっつく、テカるくらい」です。より詳しく言いますと、人差し指の先端から第一関節まで出した量(1FTUと言い、約0.5g)にて、手のひら2枚分ぐらいの面積に塗ることができます。
<注意点>
皮膚感染部位を避けて使用してください。